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学芸研究室から(第6回)【考古】石器時代の黒曜石のおはなし

 みなさんは、黒曜石(黒曜岩ともいう)をご存知だろうか。石器時代には石器の材料としてめっぽう好んで使われた石材です。年配の方の中には、雨上がりの後など家の近くの畑でキラキラ光る石鏃や黒曜石のかけらを拾い集めた記憶のある方も多いことでしょう。石器は黒曜石だけでなくチャートや頁岩、安山岩など緻密で硬質な石材でも作られますが、ガラスのような見た目の黒曜石の石器はやはり多くの人々の興味を惹くものです。実は考古学者にも黒曜石が大好きな人たちがいます。それはなぜかというと石器になった黒曜石の原産地が分かるからです。どうして原産地が分かるのでしょうか。そもそも、原産地が分かると何か良いことがあるのでしょうか。

 明治大学博物館ONLINEミュージアムの「展示室を歩く」をご覧いただくとお分かりのように、黒曜石の石器(黒くてキラキラしているのがおおむねそうです)が数多く展示されています。北海道、本州中央部、九州の遺跡から発見されることが多いのですが、それは石器時代時人がよく使った良質な黒曜石を産出する原産地がこの三つの地域に集中しているからです。

長野県長和町出土の黒曜石石器の展示

 さて、常設展示の一角にある黒曜石コーナーの展示パネルに、なにやら本州中央部の地図があります(写真)。ここには、まず黒曜石原産地がマッピングされています。中部高地、箱根、天城神津島、高原山がそうです。黒曜石はどこでも拾える石材ではなく、原産地が限定されるわけです。神津島原産地は、よりによって海の上です。次に、黒い楕円で示しているのが、旧石器時代の遺跡が密集している当時の居住地といえる地域です。居住地の遺跡それぞれからは多くの黒曜石製石器が出土しています。そして、この地図の上では、旧石器時代の居住地と黒曜石原産地が線で結ばれています。


黒曜石コーナーの展示パネル

 よく見ると、黒曜石原産地と旧石器居住地を結ぶ線の太さが違いますね。この違いは、各居住地がどの黒曜石原産地と結びつきが強いのか、その程度を表しています。線が太いほどその原産地の黒曜石で作られた石器がより多く出土しているということです。見方を変えるとこのことは、旧石器時代人の行動範囲が居住地と結びつく黒曜石原産地を含むほどに広大であったことを意味します。この結びつきを少し観察すると、高原山や箱根、天城の黒曜石は、主にそれぞれに近い居住地で石器の原材料になっている様子がわかります。神津島は、さて旧石器時代に海を渡る技術があったのかという興味深い問題につながりますが、基本的に太平洋に面した旧石器居住地で使われているようです。そして長野県中部高地の黒曜石原産地は全ての居住地との結びつきが強い、という他の原産地とは違った大きな存在感を示しています。どうしてそうなのか、このこともまた検討に値する課題といえるでしょう。

 どうやら、黒曜石で作られた石器の原産地を知ることは、石器時代についていろいろ考えるきっかけになりそうです。次の機会にはそのために必要な、石器から黒曜石の原産地を知る方法についてお話しできればと思います。

島田和高(しまだ かずたか/博物館考古部門学芸員)


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