学芸研究室から(第1回)【商品】伝統的工芸品の製造工程見本
前身の旧商品陳列館では、展示の基本コンセプトが「商品のできるまで」ということから、展示資料の基幹は原材料と半製品による製造工程見本でした。現在の「商品」の展示も基本的にそれを受け継いでいます。
しかし、半製品の公開は企業秘密が露わになる可能性があり、また、伝統工芸に関しては中途半端なものは見せないという職人気質があり、収集にあたっては困難がともなったと聞いています。
現在に至って、製造コストの関係から伝統的工芸品の価格は上昇し、その理由を具体的に示さなければ消費者に受け容れてもらえないようになりました。例えば、漆器は下地の工程での反復作業があるが故にコストも嵩むが、その分、耐久性にすぐれるという理解が必要です。製造工程見本の展示はその説明として一目瞭然です。
一方、近年では製造工程の動画をYouTubeなどで積極的に公開する動きが出てきています。やはり、伝統的工芸品を売ってゆくためには、製造に係わる高度な技術を具体的にアピールする必要があるわけです。
現在の博物館を準備した20年ほど前にも、製造工程見本と合わせて映像があるとわかりやすいと考えましたが、壁面のスクリーンに既製の映像番組を上映できるようにするのがせいぜいでした。
現在ではスマートフォンなど小型の機器を使って動画を見ることが可能となりました。展示ケース内に一般に公開されている動画のQRコードを配置してゆけば容易に見ることができるので、今後準備を進めてゆこうと思います。
さて、製造工程見本について悩ましいのは経年劣化の問題です。
物理的に製造過程の状態そのままを固定できるわけではなく、燕鎚起銅器は打ちたてであれば金色に輝いていますが、時間が経つと色はくすんでゆきます。越前打刃物も防錆処理がしてあり製作中とは色合いが異なります。
また、半製品であるが故に完成品に比べて耐久性は著しく劣ります。劣化が顕著で展示に出していない工程見本もありますが、変色等が著しい工程についてそこだけ新規に製作して入れ替えればよいものか迷います。
映像メディアがこれだけ発達した今日、このアナログな製造工程見本をどう生かしてゆくのか、次のリニューアルに向けて頭を悩ませるところです。
外山 徹(とやま とおる/博物館商品部門学芸員)