学芸研究室から(第7回)【商品】SNSが変える工芸品の付加価値
コロナ禍によって伝統的工芸品業界は、①都市圏へ出張しての展示販売、②産地への訪問客の誘致、という有望だとされていた販売チャネルを失ってしまいました。個展は作り手の在廊も少しずつ再開し、使い手の旅行もそろそろという雰囲気になってきましたが、この間、オンラインメディア活用のスキルの有無によって、販売の成否が大きく分かれる傾向が出ています。
作り手の中には、感染拡大の最中、個展会場の顧客とPC越しに会話をする試みをされた方もおられました。対面の会話に較べて距離感は避けられませんが、一方、仕事場の様子が映り、半製品や製作道具を手にしての説明を画面越しに聞ける点は新鮮でした。近年では作り手の中にも、SNSを利用して積極的に情報発信をされる方が目立つようになってきましたが、コロナ禍で拍車がかかった印象です。
その昔、情報のチャネルをマスコミが独占していた時代には、産地情報は新聞・書籍やテレビ番組に取り上げられるか、官公庁によるPRくらいしか機会がなく、独自にテレビCMを流せるような大企業はもちろんありませんでした。
しかし、SNSによる「ミニコミ」の一般化によって個人事業主が幅広く情報を発信できるようになったことは、伝統的工芸品業界、ひいては製造業のあり方を大きく変えてゆくものと思われます。従来、工芸品は物理的なモノそれ自体に価値が見出されていましたが(デザインや機能性)、近年では工芸品の作り方や、作り手の人となりが付加価値として認知されるようになってきましたが、SNSの発達と無関係ではありません。
これまで、やきものを製造する粘土がどんなものかは余程の通でなければ関心を払って来ませんでしたが、今ではその採掘から加工の様子まで見ることができます。また、その製品がどのような風土の中で、どのような契機で、どのようなアイデアから生まれてきたかを知ることもできます。
これまで、作り手がモノ作りに対する哲学や生活実践を語ることは、人間国宝がテレビや書籍に取り上げられるような機会しかありませんでしたが、今ならFacebookやTwitterで発信ができます。カタログもInstagramを利用すれば多額の印刷経費を必要としなくなりました。
このように、以前であればブラックボックスであった、製品が店頭に並ぶ以前のプロセスに関する情報が続々と発信されるようになったのですが、発信のスキルを持たない作り手が取り残されて行ってしまう動向は厳然として存在します。そして、たまたま昔の通り、昔のままにやってきたから伝わった、という偶発的な状況が許されない時代になっていることをつくづく実感します。
外山 徹(とやま とおる/博物館商品部門学芸員)
挿絵協力:赤津焼(愛知県瀬戸市)喜多窯霞仙 加藤裕重氏
加藤さんの記事の詳細は下記のサイトをご覧ください。https://www.instagram.com/kasenpottery/
https://www.instagram.com/kasenstudioworks/