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学芸研究室から(第11回)【刑事】今川仮名目録

今川仮名目録は、戦国大名今川氏の制定した分国法です。1526年に今川氏親(うじちか)が制定した「仮名目録」と今川義元(よしもと)が1553年に制定した「仮名目録追加」からなります。明治大学博物館が所蔵している今川仮名目録は、今川氏が出した法令の原本ではなくて、それを写したもの、つまり写本です。写しといっても、当時だされたものは現存しておらず、明治大学が所蔵する今川仮名目録は、現存する写本の中で最も古いものの一つである事が明らかになっています。

今川仮名目録 表紙

今川仮名目録は、東国で制定された最古の戦国法で、今川氏の治める領地の新しい裁判基準を設定するために編纂されました。内容は、土地争いに関すること、売買に関すること、貸借に関すること、相続に関すること・・・と幅広い分野に及び、今川氏による統制を強く打ちだすものです。

展示されているのは、喧嘩両成敗法を定めた部分です。けんかをする者はどちらに理があるか、非があるのかを論じないで、双方とも死罪にすべきである、と定められています。

今川仮名目録 喧嘩両成敗 

なぜ、けんかをしたぐらいで、理由も聞かずに死罪にするのだろうか、と驚きますよね。実は、この時代のけんかは、現代のけんかとはずいぶん違うのです。この時代は、今のように法律によって個々の権利が守られている社会ではなく、自分の権利は自分で戦って守らなければいけませんでした。この場合のけんかというのは、自分の権利をまもるための戦いを意味します。今川氏は、そのけんかを全面的に禁じたわけです。そこには、個々で戦って権利を主張しあう事を許さず、すべての争いの裁定を今川氏が握るという、今川氏の強い権力が示されているのです。

日比佳代子(ひび かよこ/博物館刑事部門学芸員)

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