大学博物館の可能性(明大博物館長×広大博物館長)
本記事は、明治大学博物館広報誌『MUSEUM EYES』Vol.80の特集「大学博物館の可能性」をnote向けに再編集したものです。元記事は以下のリンクからPDFにてご覧いただくことが出来ます。
中坪孝之(NAKATSUBO TAKAYUKI、写真右)
広島大学総合博物館長、総合生命科学研究科教授
研究テーマは「外来植物・希少植物の生態学」など
千葉修身(CHIBA OSAMI、写真左)
明治大学博物館長、商学部教授
研究テーマは「現代ドイツ会計制度の在り方」など
両大学間の交流
千葉 両大学の交流は、実は考古学研究ではだいぶ前からあり、1963(昭和38)年の帝釈峡遺跡群(広島県庄原市)共同調査にまで歴史を遡ることができます。その後、多様な学問領域で教育研究の連携が進み、2009(平成21)年には明治大学と広島大学との包括協定が締結されました。
中坪 直近では、2021年夏、ミュージアムキャラクターアワード(アイエム)にヒロッグ(広大)とめいじろう(明大)が参加、接戦の中、両館のファンからコラボグッズを期待する声が出たことで、広報分野での連携が進みました。ヒロッグは2020年の初出場から3年連続3位の成績なので、2023年こそはグランプリを目指します。応援してください!
千葉 今年の開催期間は、私も1日1回投票します(笑)
ヒロッグ(写真左)
広島大学の「広(hiro)」とカエルを意味する「フロッグ(frog)」が由来。日々すてきな博物館を目指して頑張っている。
めいじろう(写真右)
“森の賢者”と呼ばれるフクロウがモチーフ。収蔵資料の「十手」と「御用提灯」を携えた捕方姿。
大学まるごとミュージアム
千葉 昨日、キャンパス内の遺跡や埋蔵文化財調査部門を拝見しましたが、東広島キャンパスは本当に広いですね。
中坪 キャンパス面積は約249ヘクタールあります(MAZDA ZoomーZoom スタジアム広島約49個分)。
常設展示を行う本館に加え、サテライト館、企画展示スペース、発見の小径(散歩道)などがあり、本館を核にこれらをネットワーク化することで大学全体に広く博物館機能を持たせています。身近な里山の自然に富み、キツネ・タヌキ・テンなども現れ、これら動植物も展示の1つと考えています。
学生による活動
千葉 近年、大学博物館の運営に当たっては、学生が大きな役割を担いつつあると思います。明大では、コロナ禍で大きな変革を余儀なくされ、新たな学生生活を模索する取り組みの一つとして、2021年から学生広報アンバサダー13名が活動しており、情報発信や博物館の改善活動に携わっています。
中坪 広大には、学生スタッフ組織「HUMs」*とボランティア団体「CSR」*があり、企画展示やデジタルミュージアムでの発信を行っています。阪神・淡路大震災以降、社会貢献活動に意欲ある学生が増えたように感じます。学生の高いモチベーションを体現できる場を大学側が用意することで、学生は成長の機会を得ますし、博物館も充実を図ることができます。
千葉 今後、両館の学生による交流が持てると良いですね。まずはオンライン形式になるかと思いますが、所属大学や学部の異なる学生が集い、青春の濃密な時間を過ごして欲しいです。
*HUMs(Hiroshima University Museum students)
2018年から活動、所属10名、昨年は東広島市立美術館にて「生き物のカタチ展」を開催。
*CSR(Campus Student Ranger)
2020年から活動、所属20名、Instagramでも東広島キャンパス内の動植物などを投稿中。
社会貢献
中坪 大学博物館の使命として社会貢献があります。広大と東広島市との連携事業「Town & GownOffice」のコモンプロジェクトとして、博物館では県央地域の活性化に取り組んでいます。東広島市の人口は全体的には微増しているのですが、中心部に人口増が偏り、山間部は過疎化が進行しています。昨夏、市内の豊栄町で出張展示「県央に自然史博物館がやってくる!?」を開催しました。豊栄町の人口は約3000名なのですが、来場者は2241名を数え、リピーターが多く、家族連れが目立ちました。
千葉 明大では、キャンパス所在の自治体に限らず、所蔵品の研究成果に基づく展示を各所と連携して展開しています。長野県長和町との黒曜石製石器の文化、茨城県との三昧塚古墳、宮崎県延岡市との譜代大名内藤家文書などです。今後は小中学校への出張講義にも取り組んでいきたいと考えています。専門家だからこそ、知識を持ち合わせていない層に「専門を語らずとも専門を伝え」、普及させる工夫をしていきたいです。
大学博物館の可能性
中坪 学びは実学にのみ価値があるわけではなく、文化や博物学も有意なものですが、専門家の間だけで語っていても社会は振り向いてくれません。地域や市民に寄り添い、人材を共に育てていく。学校でも家庭でもなく知的な刺激を受けられる場、「第三の学び場」を博物館で創っていきたいと思っています。
千葉 明大では、本年4月の博物館法改正に伴い、登録博物館への申請を計画しています。同法の改正では、博物館の事業に「資料のデジタル・アーカイブ化」が追加されます。より多くの方々が博物館に足を運び、本物を見ていただくための導線をデジタルの利活用から構築していきます。
中坪 大学博物館は「この世の様々な物事の価値を知っている人を育てる場」になり得ます。そして、「大学博物館が身近にあって良かったよね、社会が豊かになる大学博物館っていいよね!」と言っていただきたいです。
千葉 次は中坪館長に明大へお越しいただき、更に交流を深めましょう。本日はありがとうございました。