本記事は、明治大学博物館広報誌『MUSEUM EYES』Vol.80「収蔵室から－姫塚古墳の鉄製大刀に見る日本刀の起源（筆者：竹内理来）」をnote向けに再編集したものです。元記事は以下のリンクからPDFにてご覧いただくことが出来ます。

「刀」という言葉から最も想像されるのは、湾刀わんとう※1で鎬しのぎ※2を持つ、いわゆる日本刀の姿だろう。実は、こうした姿の日本刀が成立したのは平安時代の後期から末期にかけてであり、それ以前は直刀と呼ばれる反りのない姿をしていた。今回は、姫塚古墳（明治大学での登録名:北ノ谷２号墳）から出土した大刀たちをもとに、古代鉄刀の姿の変遷についてご紹介する。大刀とは、日本刀成立以前の刀のなかでも長いものを言い、日本刀の太刀とは区別される。

愛知県豊橋市に位置する姫塚古墳は、６世紀末〜７世紀初頭に築造されたと考えられている。１９５３年に明治大学教授であった後藤守一氏をはじめとした明治大学関係者と地元研究者らによって調査が行われ、須恵器、鉄製武器類、装身具などが出土した。この鉄製武器のうち、刀剣類は大刀６点と剣１点が見つかっている。うち一つには柄縁つかぶち金具や鎺はばき、足金物あしかなものと呼ばれる金具が残り、当時の拵こしらえの名残をとどめている。

姫塚古墳の大刀は全て直刀であり、刀身には鎬がなく平面で、刀身の断面が二等辺三角形になる形状である。これは造込つくりこみ※3の種類において平造ひらづくりに分類される。平造の大刀は国内では古墳時代から平安時代にかけて作られていたが、日本刀の成立以降、平造は短刀によく見られる造込みとなり、太刀など長さのある日本刀で平造のものはほとんど見られなくなる。

この大刀は姫塚古墳が築かれた当時における一般的な姿と考えられるが、時代が下るにつれて大刀の姿は直刀平造から変化していく。徐々に柄や刀身に反りを持つものが増え、造込みについても、鎬を持たない平造から鎬を持った切刃造きりはづくり※4、そして11世紀半ばから12世紀ごろに鎬の位置が棟むねに寄った鎬造※5へと移行する。

戦闘において、姫塚古墳のもののような平造直刀の大刀を使用していた時代は、まだ鍛錬や研磨の技術が高くなかったため切れ味があまり鋭くなく、突進しながら大刀を敵に打ち当てて擦るように斬っていたと考えられる。それには敵に当てやすく、長さも確保できる直線的な形状が適していた。しかし技術の向上により切れ味が良くなるにつれ、突進せずとも手元での操作のみで斬ることができるようになり、これに対応して大刀の形状が変化したとみられる。まず、反りがつくことによって引き斬りができるようになった。これは直刀による斬りよりも軽い力で行うことができる。加えて、反ることによって重心が手元に寄るため、実際の重さよりも軽く扱えるようになる。また、切刃造と鎬造は側面の鎬によって斬る対象に触れる面積が平造よりも小さくなるため、より抵抗なく斬ることができるようになる。さらに鎬造は、切刃造よりも刃先の角度が鋭く切れ味が良い上、鎬で刀身の厚みを確保しつつ、棟側と刃先側を薄くできるため、強度を保ちながらの軽量化が可能である。総合的に見れば取り回しを良くし、より少ない力で高い攻撃力を得るための変化であり、実戦を念頭に置いた改良と言うことができるだろう。

今回ご紹介した姫塚古墳の大刀は、日本刀の祖先ともいえる姿をした刀剣である。考古部門の常設展示には切刃造の大刀のレプリカもあるので、それらを見比べながら日本の刀剣の変遷に思いを馳せてはいかがだろうか。

註　※1 反りのある形状をした刀剣。
　　※2 刀身の側面にある稜線。
　　※3 刀身の立体的な構造。主として平造、鎬造などがある。
　　※4 刀身側面の半ばから刃先寄りに稜線を持った造込み。
　　※5 刀身側面の半ばから棟寄りに稜線を持った造込み。

＜展示のお知らせ＞
明治大学博物館では、明大コレクション53「上古じょうこの刀」を開催中（会期：2023年2月7日(火)から5月6日(土)まで）です。
古代の直刀は、いつ、なぜ日本刀へとその形を変えたのか。
明治大学の調査によって出土した古墳時代終末期の大刀5点を展示し、鉄刀の姿の変遷について探ります。
姫塚古墳出土太刀も展示していますので、ぜひご観覧ください。